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緑屋本店(熊本県人吉市)

緑屋本店

熊本市から車で80分ほど南下しました。宮崎県と鹿児島県に隣接する熊本県最南端。「文化としては鹿児島に近いですから、醤油も甘く感じるかもしれないですよ」と緑屋本店の青木一幸さんが出迎えてくれました。

緑屋本店

緑屋本店は明治35年創業。市内のスーパーには九州の様々な醤油メーカーの醤油が並んでいます。その中で一番人気と書かれているのが緑屋本店の醤油。二番人気も三番人気も同社のものです。

緑屋本店

そして、驚いたのが同容量、同種類の中では一番価格が高いことで、価格ではなく味で選ばれている証拠。

緑屋本店

本社工場を訪れると、夕方ということもあって配達が終わったトラックが帰ってきていました。九州では醤油メーカーが配達をしているケースが珍しくなく、スーパーや料理店はもちろん、給食をつくっている施設や一般家庭にも直接運んでいます。

緑屋本店

製造現場を見学させていただくと充填用の設備が汚れ一つない状態。「きれいにされていますね」と伝えると、「8割は清掃だと言っています」と青木さん。味噌を仕込む用の室の中もその言葉通り壁も全部きれい。

緑屋本店

社名は「緑屋本店」、醤油は「一騎印」、みそは「いつきみそ」。「すごく、ややこしいですよね!お客様にも地域によって呼ばれ方がちがうんです。緑屋さんだったり、一騎さんだったり」と、青木さんは笑いながら一騎印にまつわる話をしてくれました。

緑屋本店

一騎印を定めたのは創業者の熊十さん。歌詠みでもあって、書の品評会で目にした歌がきっかけだったといいます。「銀鞍の白馬豊かにまたがりて、若武者一騎花の下いく」。馬にまたがる若武者の姿を描く際も、馬が躍動する様を描くのに細かく指示をだすなど、相当なこだわりだったようです。

一番長い時間を過ごす諸味の期間

醤油の諸味

麹に塩水を混ぜたものが諸味で、醤油づくりにおいて一番長い時間を過ごすのがこの工程です。その諸味の出来が醤油の個性を左右すると思っていますし、諸味をみるとその蔵元がどんなスタンスで醤油づくりをしているかが分かるような気がするんです。

特に暑い時期になると産膜酵母という白カビが発生してしまいがち。大量発生しているのが放置されているのは論外ですが、どのように発生しないような工夫をしているか?その質問一つをとっても答えは様々です。

多くの答えは攪拌といってかき混ぜる作業をすることで防ぐというものなのですが、決められた通りに一週間に何回混ぜてます…というものから、こんな状態を保ちたいから、こうなったらこう混ぜます…だったり、この部分をこう混ぜるのが理想だと思うんです…など。

同じ「混ぜる」でも、その背景にあるつくり手毎の理屈は異なるわけで、そのあたりを聞いていると、つくり手の性格と醤油の味わいが似てくるっていうのも、なんとなく頷けてしまうのです。

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醤油の諸味
https://www.s-shoyu.com/knowledge/0505

人と機械が感じる温度の違い/小笠原味淋醸造(愛知県碧南市)

小笠原さんと糀づくりの話をしていました。

蒸した米に麹菌をつけて繁殖をさせる工程。日本酒づくりなどで杜氏さんが汗だくになりながら米をかき混ぜながらしている、あの作業です。

一般的には2日〜3日かけて行うもので、職人が適切なタイミングで手入れをすることでよい糀ができあがります。

麹菌が育つと温度があがるのですが、上がりすぎても下がりすぎてもだめ。ちょうどよい温度と湿度の調整をしながら麹に手を入れるのですが、タイミング次第で出来栄えが変わってしまう繊細は作業。

この期間中、つくり手は気が気じゃないと皆が口にします。





とくに温度経過は大切。温度計でしっかりと測ります。

センサーとつなげて、設定していた温度になると自動で手入れがスタートする仕組みになっていたり、想定と異なる温度になると警告音がでるようにしている蔵元も多いです。





小笠原さんは「同じ35度でも、元気のいい35度と元気のない35度があるよね」と言います。温度計で測ると同じ35度。でも、手を入れた時の感じ方が違うそうです。

これからどんどん熱をあげていきそうな、そんな勢いを感じるのが元気のいい35度。当然、その後の対処の仕方も異なります。

このような感覚が、同じ作業をひたすら反復し続けることで身につく職人ならではのものなのでしょうね。

醤油蔵で出会った笑顔

職人醤油通信(メールマガジン)に書いた内容を記載。
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先日、愛知県から小豆島を経由して兵庫県の醤油屋さんに伺ってきました。

同行者は、大手の醤油メーカーの開発担当のNさん。

醸造や発酵に関する理論的な話はお手の物で、
私が何か質問しても、きちっと道筋立てて解説をしてくれます。

理論に偏ることなく物腰も柔らか。
そして純粋に醤油が好きっていうのが伝わってくる雰囲気で、
同世代ということもありますが、
個人的にもとても仲良くさせていただいている方なのです。





醤油屋に同業である醤油屋が立ち入るのは珍しいことだと思います。

しかも、大手と地方の伝統的な蔵元とでは、
お互いに暗黙のうちに遠慮しあうというか、
そもそも接点がないということもあると思いますが、
現場に入って話をすることはあまりないはずです。


今回、ある醤油蔵で印象的なことがありました。


到着すると社長さんが応接室に案内してくださり、
現場を熟知している職人さんも同席していました。

ただ、その職人さんはほとんど口を開きません。
私が話を振っても、一言二言を口にするだけ。

Nさんを連れてきたことで不機嫌になっているのかな・・・
と、少し心配になりながら、
「そろそろ中を見せていただいていいですか?」と
蔵の中に移動をしました。





すると少しずつ口数が多くなってきした。

ちょうど麹づくりの解説をしている時、
「経験的にこうするのが正しいと思ってるんですよ」と言うと、
Nさんは「それは理にかなっていると思います」と返します。

そして、なぜそれが理にかなっているのかを
醸造学に基づいて論理的に説明しはじめたのです。

それを聞いていた職人さんの表情がみるみる変化してきて、
今までに見たこともないくらいの満面の笑みに。

はじめてサンタクロースにプレゼントをもらった子供のような、
あっけにとられているような純粋な笑顔で、


「じゃあ、いままでやってきたことは間違ってなかったんですね!」と。





その後の二人は勝手に盛り上がっていました。

予定していた時間を大きく超えて、
「次の約束に間に合うギリギリなので」と
何度か遮る必要があるほとでした。

二人の会話を聞いていて、
私自身とても勉強になったのですが、
それ以上に、やっぱり製造の現場っていいなぁ〜っと感じていました。



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[職人醤油通信 vol.107]醤油蔵で出会った笑顔
http://www.s-shoyu.com/howto/ml/107.html

大手には旬がある/正金醤油(香川県小豆島)

正金醤油

「大手の醤油メーカーさんがつくる醤油には旬がある」と正金醤油の藤井さんは言います。

一般的には、逆の印象を抱く方のほうが多いかもしれません。大量生産ができる大手メーカーよりも、小規模で昔ながらの製法の蔵元にこそ旬がありそうな気もします。

藤井さんはとても謙虚なつくり手さん。大手の悪口を言わないばかりか、大手の研究開発技術や管理の仕方をすごいと認めています。

そして、話を伺っているとこの「旬」の捉え方に、なるほどと感じてしまうのです。



大手メーカーは一年を通して醤油をつくることができます。仕込みの条件や発酵の管理など研究に裏付けされた理論があるからです。醤油をつくる微生物が最も活動しやすい環境を整えることも可能。

短期間で大量生産、しかも同一品質を実現できるということは、醤油が一番おいしくなったちょうどのタイミングで一気に搾ることができるわけです。

逆に、小規模の醤油蔵の場合、寒い時期に仕込みをして約一年の熟成期間を経て圧搾をスタートさせますが、一度に全量を搾るわけではありません。年間を通して搾っていくので、一年熟成のものもあれば一年半熟成のものもあります。

醤油にとって一番おいしいタイミングを「旬」と捉えれば、その少し前の「走り」のものもあれば、旬を少しこした「名残」のものもあるというわけです。



旬の素材を食すときも同じはずです。一番の食べごろが「旬」であれば、出始めのものは「走り」で、旬が過ぎてそろそろお終いという「名残」があって、微妙に味わいも異なるはず。

これを醤油に置き換えると、大手メーカーは出荷のタイミングにすべてを「旬」で揃えることができるけど、小規模メーカーの場合は「走り」も「旬」も「名残」もあるというわけです。

悪くいえば味のぶれ。でも、この点が魅力だとも感じています。

混ぜるより時間がかかるよね/正金醤油(香川県小豆島)

正金醤油

先日、小豆島の正金醤油さんに伺ってきました。いつのように藤井さんに出迎えていただいたのですが、この藤井さんは私の知る限り一番謙虚なつくり手かもしれません。国産原料で木桶仕込み。蔵の中もとにかく手入れが行き届いていて、細かいところまで管理されています。

蔵に入った時の床を見れば一目瞭然で、木目がしっかりと確認ができるほどに磨き上げられています。

これって、簡単じゃないんです。今の時期は醤油の諸味がぷくぷく発酵をしていて、攪拌といってかき混ぜる作業も行われます。その時の飛び跳ねがどうしても床についてしまうのですが、それを拭き取る程度ではこの状態にはならないはずです。拭き取って、さらに磨き上げるくらいに丁寧に拭いているはずなのです。

正金醤油

「きれいにしようと思うと、混ぜるより時間がかかるよね」と藤井さんはいいます。攪拌にかける時間より、掃除にかける時間の方が長くというわけですが、そのおかげで蔵の中にはイヤな臭いがなくて、心地よい醤油の香りが広がっています。「諸味を混ぜている時に、香りがよい方が気持ちいいでしょ?!」と、自分のためにしているかのようなものの言い方も、藤井さんらしいなって感じてしまうのです。

中村醸造元(青森県南津軽郡)

中村醸造元

スーパーの調味料売場に行くと、その地域ならではの醤油が並んでいることがあります。青森県の場合は昆布醤油。地元や県外の大手メーカーの昆布醤油も並び、ひとつのコーナーができているほどでした。

神田川俊郎さんの顔写真がパッケージになっている昆布醤油をご存知の方も多いかもしれません。このインパクトのある「元祖昆布しょうゆ」を手掛ける中村醸造元に訪問させていただきました。

中村醸造元

兼平さんは元日本酒の杜氏さん(右)。

日本酒と醤油は似ているようでやっぱり違うそうです。「日本酒の時は何か変化があったときにすぐに判断をしないといけないけど、醤油はじっくりと考えて対応できるよね」と、その語り口調が、いかにも現場一筋って感じの回答でした。

大豆を水に浸す時間も季節ごとに決められていて、誰もが同じ作業をできるように表にまとめられていました。そして、何より印象的だったのは「洗浄に始まり洗浄に終わる」という一言。醤油や諸味を輸送するホースもしっかりと手順を決めて洗浄しているそうですが、「酒造りでは当たり前のことでしたから、そのままをやっているんですよ」と。

中村醸造元

「色がうすくて、醤油っぽくないものを目指している」というのも、昆布醤油にしたときに昆布と醤油の相性を最適にするための逆算のように聞こえますし、そうかといって、加工技術に頼り切っているようなスタンスもなくて、醤油に使う大豆と小麦もすべて青森県産だそうです。

地元を含めて多くの方に応援されているんだろうなって、そう感じさせてくれる蔵元さんでした。

新潟県産醤油復活プロジェクト

新潟県産醤油復活プロジェクト

テレビの取材で新潟県醤油協業組合さんに伺ってきました。過去に一度訪問させていただいたことがあるのですが、円盤製麹室の中がとにかく綺麗で、「先輩の時代からずっと言われて続けているんです」と、特別なことではない雰囲気。今回も夕方になると現場のあちこちで掃除をされていました。しゃがみこんで床をゴシゴシしている光景も、日常なんでしょうね。

組合の工場はその名の通り、組合に加入している醤油メーカーの醤油生産を共同で行っています。日本の各地に存在しているのですが、自社商品をつくっていることは少ないので、存在を知っている方は少ないかもしれません。でも、新潟ではこんな取り組みをしているそうです。

新潟県産醤油復活プロジェクト
http://www.syoyu-fukkoku-pj.jp/

新潟県産の大豆と、新潟県産の小麦。それを天然醸造で醤油にして調整せずに瓶詰めするという、新潟県の原料と気候でつくる醤油づくり。その一部は地元の方を巻き込んで、仕込みの作業を一緒に行い小さな木桶に分けられていました。これはさらに特別な醤油として、自分たちが仕込んだ醤油を自分で食せるってわけです。

「元々は社内を意識した取り組みだったんです」と話してくれたのは常務理事の佐田さん。「スタッフが小麦がつくられている現場を知らなかったんです。だって、電話すれば原料としての小麦がどかんと届きますから。でも、地元で原材料が作られていれば、こんな環境で育っているんだって感じることもできるし、お客さんがきたらちょっと見に行きましょうってこともできる。最初はそんなところだったんですよ」。

どんどん新しい取り組みに挑戦して、若いスタッフに役割を任せていく。佐田さんのような方がいると、このような取り組みが加速していくんだなって感じました。ぜひ、サイトを見てみてください!

新潟県産醤油復活プロジェクト
http://www.syoyu-fukkoku-pj.jp/

加藤味噌醤油醸造元(青森県弘前市)

加藤味噌醤油醸造元

ミツル醤油の城さんとの東北訪問。青森県弘前市の加藤味噌醤油醸造元さんにやってきました。加藤諭絵さんと城さんが大学時代に同じ研究室、ご結婚されてご主人の裕人さんは群馬県から青森県に移り住んだそうです。

立派な看板が掲げられている店舗。中は住居も兼ねていて、その奥に蔵が続くのですが、まぁ、とにかく立派です。「修繕が大変なんです・・・」と言われますが、増築を繰り返したような形跡もそれだけ歴史を刻んでいる証拠なのだと思います。

加藤味噌醤油醸造元

この時は5月の半ばだったのですが、青森はやはり涼しい。城さんのいる九州では諸味が発酵しているそうですが、ここではそんな気配は一切ありません。これから暖かくなってくると発酵も始まってくるはずですが、分かりやすい形で地域差があることを実感します。

加藤味噌醤油醸造元

室全体が分厚い壁で覆われていて、内側は木の板が貼られています。特徴的なのは木目がしっかりと確認できるくらいに綺麗なこと。日本酒の麹室と思ってしまう程でした。醤油の場合は黒くなっている場合がほとんど。特に壁の板がこの状態というのが、「どうしてだろう?」と城さんも呟いていました。麹づくりの時はもっと寒いので、外部の空気を入れることで室の内部が結露しにくいとか、なにかしらの理由がありそうです。

加藤味噌醤油醸造元

そして、倉庫の中で目にしたのは山のように積まれている麹蓋。「使わなくなったという方からいただいてきたんです」と裕人さん。1回の仕込みに400枚。時間差で2回分の麹蓋が室の中に入るので、その倍の800枚が稼働するそうです。諭絵さんのお父様がずっと守ってこられた製法なのですが、麹蓋による製麹は全国的にみてもかなり珍しいものです。

加藤味噌醤油醸造元

このように伝統が根付いてる環境。若夫婦が戻ってくると、何かしらの変化が生まれるものですが、これからどんな方向に進んでいくのか?また数年後に伺いたいと、そう感じさせてくれる蔵元でした。

加藤味噌醤油醸造元

加藤味噌醤油醸造元
https://www.tsugaru-yamatou.com/

横着しちゃだめですね・・・/石孫本店(秋田県)

石孫本店

ミツル醤油の城さんと東北の蔵元を3日間かけて訪問してきました。岩手県から青森県弘前市まで北上、そこから太平洋側の八戸を経由して、日本海側の男鹿半島まで横断。そして、最後に秋田県湯沢市の石孫本店を目指す行程。蔵に行っては移動しての繰り返しをしていました。

その最後の石孫本店さん。今の時代に石炭で小麦を炒って、麹蓋による麹づくり。木桶による味噌と醤油の仕込みをする蔵元はここくらいだと思います。醤油の博物館に展示されているような昔ながらの道具の数々が現役なのですが、一番の特徴はそれを使い続ける職人さんたちの姿勢のように感じています。

到着してすぐ、蒸した大豆と小麦を混ぜ合わせる作業場を案内いただきました。畳10畳以上の広さはコンクリート。ただ、表面にひびが入ってしまっていました。元々、劣化してきた部分を修繕するために、その上からコンクリートを塗っていたそうなのですが、その部分にひびが入ってしまったそうです。「やっぱり、横着しちゃだめなんですよね・・・」と話す石川さん。

これを「横着」と表現するのが、なんとも石孫さんらしいなって、そう感じていました。

石孫本店
http://www.s-shoyu.com/ishimago/