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東京人に掲載いただきました

東京人

雑誌づくりって大変だと思うんです。発行日というゴールに向かって、企画案を練り上げて、紙面のレイアウトをつくって取材先を選定して、アポイントをとってライターさんとカメラマンさんを手配して、取材日当日を経て、ひたすら校正を繰り返して...そして、一つが完成すると次の企画がまたスタートする。この繰り返しをしていればどんどん流れ作業になってしまうと思うんです。ただ、今回ご担当いただいた片岡さんという女性の丁寧さに最初から驚きっぱなしでした。

最初にいただいたのはとびきり丁寧なメールでした。誌面の紹介からはじまって、どうして職人醤油を知ったのか、その時の印象から実際に使っていただいた感想、取材日程や当日の流れなど読み手の立場にたってイメージしやすいように、返信しやすいように綺麗にまとめてくれていました。その後のやりとりももちろんこの調子なわけで、毎回こんなに丁寧に対応しているとしたらすごいことだなって。

そして、今回の文章を書いてくださったのが藤田千恵子さん。食と日本酒の執筆の世界では有名な方で、著書である「極上の調味料を求めて」は職人醤油をスタートしたころに読ませていただきました。そんなわけで、ダブルで嬉しいことが重なった印象深い取材となりました。東京人(2017年1月号)に福島屋さんやFOOD&COMPANYさん、AKOMEYAさんなど有名な食のセレクトショップと並んでご紹介いただきました。ぜひご覧いただけますと幸いです。

醤油サミットのパネルディスカッション

2016年11月12日に開催された「第7回 全国醤油サミットin碧南」にてパネルディスカッションの司会を務めさせていただきました。「醤油でつながる人・地域 」というテーマをいただいていたので、「つながり」というキーワードを中心に以下の3人の方と話を進めていきました。

・ 堀田雅湖さん (勝手に醤油サミット応援隊)
・ 廣瀬ちえさん (CHIE'S KITCHEN)
・ 岡島晋一さん (ヤマシン醸造)
・ 高橋万太郎 (司会/職人醤油)

よくあるパネルディスカッションは、司会者がパネリストに順番に質問を振って、淡々と話が進み、そろそろ時間が迫ってきてしまいました、まだ話したいこと山盛りですが、このへんでまとめを・・・のようなパターンが多いように感じていて、もっとこの4人だからこそできる雰囲気に・・・とパネリストの方々に伝えると、瞬時にくみ取ってくれて、どんどん話をかぶせていきますねと打ち合わせの段階から和気あいあいに。



「つながり」という論点はずらさずに話をつないでいったつもりなのですが、振り返ってみると新しいつながりを作っていくことが自社の立場を明確にしていくというか、自社の強みに磨きをかけていくことにつながるというか、消費者の方に対して分かりやすい説明ができるようになる。と、そんなことにつながっているように感じました。

一つ目が、廣瀬ちえさんが話されていた内容なのですが、生産者の想いが消費者に伝わっていないという話題から。料理教室を運営する中で、生産者とも一般の消費者とも接点がある立場から、生産者はたくさんの想いを持っているのに、消費者の側には伝わっていなくて、そもそも醤油の原料や製法を知っている人はごくごくわずか。

最近はSNSなどをつかって情報発信をすべきとよくいわれるけど、誰がそれを担うべきか?SNSを定期的に更新していくことは本当にたいへんでマメさも必要。この作業を生産者がすべて担うべきかというと、そうでもないような気がするといいます。その生産者や商品のファンであったり、応援したいと思ってくれる「応援者」をつくることが大切で、その関係性ができるとその人たちが情報を発信してくれる。その話を受けて、ヤマシン醸造の岡島さんも 「単に商品をつくって販売するという関係でなく、もっとお互いに顔が見える状況をつくらないといけないと思う」と言われていました。

二つ目が、その応援者という立場が今回の醤油サミットで生まれていて、堀田さんが中心となって結成された「勝手に醤油サミット応援隊」です。いろいろな立場の人たちが勝手に応援しようと愛知ではもちろん東京や神奈川でイベントを開催したり情報発信をしてきました。広報予算がついているわけでも報酬がでるわけでもなく、皆が勝手に応援イベントを開催してきたそうです。堀田さんいわく、この取り組みに白醤油メーカーの3社の社長さん自らが参加してくれたことが大きかったといいます。

三つ目が、先の話を重なってくるのですが、その3社の社長さんが集まるイベントでの出来事。ヤマシン醸造さんの蔵の中に3社長が集って取材写真をとるときに「この構図はすごいです!」 とカメラマンさんが興奮気味に話してくれたそうです。同様に、ホテルでイベントをした時も3社の社長が一堂に会している光景が「すごい!」と参加者の方たちが3人を取り囲んで写真撮影大会になったそうです。

ライパル3社が同じステージに立って仲良くしている光栄が面白く貴重だというのです。ヤマシン醸造の岡島さんは「それがすごく違和感だった」といいます。同じ地域にある同業者同士なのだからライバル関係というか、もっと仲が悪いという構図が望まれているのかもしれない。傍から見たら面白い光景かもしれない。ただ、仲良くしてはいけないのかな?と違和感だったそうです。

一方で、振り返ってみると、3社が集うイベントというのもはじめてだったといいます。ありそうでなかった。だけど考えてみれば当たり前で、全国的にもマイナーな存在の白醤油、普通に考えれば何かのイベントの時に1社いれば十分というのが普通のイベント主催者の感覚かもしれません。白醤油メーカー3社だけが集まって、白醤油しか並んでいないイベントにどんなニーズがあるのか?(笑) ですよねと。

ただ、 いざ一堂に会すると気づきも多かったといいます。イベント会場で顧客に白醤油の説明をしようとすると、いつもしている説明を横の別メーカーの社長さんがしているわけです。同じ説明をするわけにもいかないので、否が応でも自社の白醤油の特徴は何なのか?他の2社とどう違うのか?それをどう表現すれば伝わるのか?頭をフル回転させていて、イベントが終わった時には呆然としていたといいます。横のメーカー同士がつながる場に身を置いたことで自社のことが見えてきたといいます。

大久保さんの木槽タンク

11時に蔵に集合というお便りをいただき伺うと、関係者らしき人たちがちらほら集まりだしていました。「やあやあ、久しぶりだね」と挨拶もそこそこに大久保さんが案内してくれたのは、元々玄関のあった場所。そこにすっかりと新しい建物ができていて、大きな引き戸の扉部分にはしっかりと漆が塗られていました。

大久保醸造 木槽タンク

扉を開けると皆が「お〜!」と口にしているのが聞こえてきます。大きな木槽タンクが横に寝転んでいます。この前代未聞ともいえる設置のされ方をしている1万リットルの木槽タンク が2つ、これにもまた綺麗に漆が塗られています。

大久保醸造 木槽タンク

これは何かというと諸味の発酵タンクです。通常は縦型の桶やプラスチックタンクが一般的で、中の諸味をかき混ぜる攪拌を行うことで管理をしていきます。ただ、この攪拌作業がとても人手も体力を必要とする作業で、しかも空気による攪拌だと過剰に混ぜすぎてしまうと大久保さんは感じていたそうです。そこで考案したのが諸味を混ぜるのではなくて、動かすというもの。

大久保醸造 木槽タンク

この木槽タンクの中に大きなスクリューが入っていて、5馬力のモーターでゆっくりとぐるっと動かします。中の諸味がその動きにのって一回転するといいます。タンクの中に諸味が満たされている状態にするので空気と接触する面積も最小限になり攪拌過多にもなりません。しかも、メンテナンスが楽で人でも不要。一石三鳥ともいえる仕組みです。

大久保醸造 木槽タンク

この木槽タンクを手掛けたのは日本木槽木管株式会社。もともとこの試みを大久保さんから打診されたのは8年前だったといいます。ただ、通常は縦に備え付けることを前提にした構造なので、横にすることが現実的ではなかったといいます。そのまま横にすると、下に過重がかかり上の板と板の間が空いてしまうそうです。板同士が密着していないと中身が漏れる原因にもなり、しっかりと品質保証のできないものを手掛けるわけにはいかなかったといいます。それでも大久保さんの熱意に押される形で試作品を作り、大久保さんとも議論を重ねて今日の完成を迎えたとそうです。

大久保醸造 木槽タンク

「漆はいいもんだよ」と大久保さんはいいます。「昔ね、木のお風呂もしばらく使い続けると黒いカビがでてくるわけさ。それが嫌なもんで漆を塗ったところ、これが調子いいんだよね。時間がたっても水から嫌なにおいがしないんだ」。そんな体験から内側にも外側にもしっかりと漆を塗っているそうで、日本木槽木管さんも通常タイプの木槽タンクにも漆を採用するようになったといいます。貯水タンクなどの場合、水の匂いに大きな違いがあるとそうです。

大久保醸造 木槽タンク

大久保さんはこうもいいます。「学問的なことじゃないんだ。感覚的によいものだと感じているんだ。だって、木でつくられた建物は百年たってもメンテナンスをしていれば使い続けることができるけど、鉄筋でつくった建物は40年もたてば老朽化だなんて言われてしまう。自然なほうがいいじゃない。漆は木の樹液でしょ。それを木に戻しているわけだよね」

大久保醸造 木槽タンク

大久保さんの創意工夫をどんどん形にしていくアグレッシブさは不変のもので、その柔軟性とチャレンジ精神を目の当たりにして清々しい気持ちで帰路につきました。

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◆大久保醸造店
http://www.s-shoyu.com/ookubo/index.html
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