そうめんのつゆの比率

愛知県碧南市の小笠原味淋の小笠原さんは「めんつゆは、だし:みりん:醤油=4:1:1で絶品!」と声を大にして主張されます。「特にうちの妻がつくるめんつゆは相当にレベルが高いですよ」と言われるので、それならばと、これからそうめんの時期を迎えるにあたり、複数の醤油で試食をしてみることにしました。

そうめんつゆの比率

白、淡口、濃口、再仕込み、溜の5種類の醤油に対して、昆布と鰹のあわせだしを用意して、みりんを火にかけてアルコールを飛ばしだしと醤油を加えます。比率は、だし:みりん:醤油=4:1:1です。

最初の予想としては、濃口醤油は無難に平均的な味わいになってくれて、そこを中心に白・淡口はだしの風味を活かせて、溜は濃厚なタイプになるのではないかと思っていました。

そうめんつゆの比率

ただ、この予想は大きく覆されました。まずは白醤油。みりんに甘みがあるので、白醤油とあわせることでさらに甘さが増してくる印象。これはちょっと違うかも・・・。

続いて淡口。だしの感じがもっと前面にでてくるかと思っていましたが、みりんの甘さが強いように感じて、かけうどんのつゆとかであればすごくあいそう。ただ、そうめんのつゆと考えると、これも違う印象でした。

そうめんつゆの比率

濃口醤油。だいぶバランスが取れてきた印象なのですが、醤油の感じも甘さの感じも強く感じ、とにかく全体的に強い感じがします。「4:1:1の比率本当かなぁ?」と心配になりつつ、次は再仕込み。あれ、かなりアリかも。だしと甘みと醤油のうま味がよいバランスになってきました。

次の溜になるとさらにアリで、意外なことに溜が一番よかったです。ただ、全体的にもう一歩何かが変わればさらにおいしくなる気がして、何が足りないのだろうと考えていると、出来立ての温かいまま味を比べていたことに気づき、いったん冷ましてみることに。

そうめんつゆの比率

それぞれが冷えた後に改めて比べてみると、印象が確かに変わります。温かい時は全体的にみりんの甘さが前面に出てきていたのですが、その甘さが必要以上にでてこずに全体がしっかりとまとまってきました。淡口も濃口も温かい時と比べるとおいしくなってる。でも、依然として溜がおいしいことは変わりません。

よくよく考えてみると、小笠原さんの愛知県は溜の主産地でもあって、刺身には溜が落ち着くとも話されていました。確かに溜など濃いめの醤油だと「4:1:1」がちょうどよい印象です。

では、濃口醤油を活かせる比率はどうだろうと、みりんの量を減らして、だし:みりん:醤油=4:0.5:1にしてみると明らかに醤油のしょっぱさが強い。この路線ではないなと、みりん:醤油=1:1を固定してだしの量を増やしていくと、5:1:1にしたときにかなりしっくりときました。

そうめんつゆの比率

溜をベースにするなら、だし:みりん:醤油=4:1:1。濃口醤油なら5:1:1が現時点のちょうどよい比率になりました。ただ、継続してさらによい比率を探っていきたいと思います。

だしをとる手間を乗り越えれば、簡単においしいめんつゆが簡単にできます。しっかりと冷やすとよりおいしく感じるはずです!

醤油の香りと酵母菌

醤油の香り

香りをつくる主人公は酵母菌

焼き鳥や焼とうもろこしなどの、あのこうばしい香り。醤油中の糖分とアミノ酸が反応(アミノカルボニル反応)してつくりだされる成分です。これに代表される香りは醤油の魅力の一つだと感じています。

その香り成分は300種類以上が含まれているといわれています。厳密なところは解明しきれていないとも言われていますが、その主役は微生物。中でも酵母菌が大きな役割を担ってくれています。花や果物やコーヒーなどの成分をたくさんつくってくれています。

主発酵酵母と後熟酵母

酵母菌は主発酵酵母と後熟酵母とに分けられます。乳酸菌が活躍した後に動き始めるのが主発酵酵母で主にアルコール発酵をしながら、醤油特有の香り成分であるフラノン化合物をつくり、麹菌や乳酸菌がつくった有機酸を元にエステル類をつくりだします。

後熟酵母は小麦の皮の成分などが炒られたり麹菌が作用したりなどを繰り返して、最後は後熟酵母がはたらいて醤油に重厚感を与える香りをつくりだします。熟成香や燻製のようなかおりとも表現されます。

[醤油の知識]:醤油の香り

えそ醤油

連続で訪問をさせていただいた、イチビキさんとヤマサ醤油さん。関連がなさそうで、じつはあるのです。ちくわの原料となるのはグチ、エソ、ハモの魚です。身の部分と頭や骨などに分けられて、ちくわに使われない部分がでてくるのですが、この素材を使った魚醤づくりのプロジェクトが、イチビキさんとの共同開発として進んでいるのです。

えそ醤油

実は、ヤマサちくわの佐藤常務とイチビキの中村社長は同級生。同窓会の席での何気ない会話がきっかけだったとか。

イチビキさんの研究開発部では国内、そして海外の魚醤を集めて味比べをしたそうです。最初の感想は、くさい。魚醤といえば独特の臭いが特徴ともされますが、とにかく、くさい。ここをなんとかできないかと感じたそうです。

一般的な魚醤は塩漬けです。魚の内臓にある酵素によって魚のタンパク質がうま味成分のアミノさんに分解されることでつくられます。つまりは発酵というより分解による作用なのですが、ここに醤油づくりで培ってきた発酵の技術を加えることができないかという挑戦です。

えそ醤油

最初はやはり失敗つづき。くさくなってしまい、泣く泣く捨てる日々。改善の第一歩は鮮度だったそうです。当初は、さばいた魚をヤマサちくわさんからイチビキさんに運んで塩漬けにしていたそうですが、ヤマサちくわさんでさばいた時点で塩漬けにする。素材が新鮮だとくさくなる割合がぐっと少なくなるそうです。そこに醤油の麹を加えて乳酸菌、酵母菌も加えて発酵をさせる工夫を積み上げてきたそうです。

一般的に発酵しない溜醤油を発酵させているイチビキさんの技術。それがまさに活用されているわけです。発酵過程の魚醤の諸味を見せていただきましたが、おどろくほどにいやなにおいが皆無で、これ本当に魚醤ですか?と聞いてしまうほど。魚醤はくさいという思い込みがなくなってしまうような味わいでした。

ヤマサちくわさんを訪問

ヤマサちくわ

愛知県豊橋市にあるヤマサちくわさんを訪問。
地元では知らない人はいないくらいに有名な存在で、ちくわの原料の魚をさばくところから販売までを一貫して手掛けています。

ヤマサちくわ

朝10時に伺うと、「今の時間なら焼きたてを食べられるから・・・」と、工場で焼きあがったばかりのちくわをお持ちいただきました。あつあつでしっかりとした歯ごたえ。抜群においしいですねと伝えると、「焼きたてを口にする機会はめったにないと思いますが、冷めると皮の部分がより弾力をもって、それはそれでおいしくなるんですよ」とのこと。

ヤマサちくわ

ヤマサちくわさんは製造直販。製造は朝早くからスタートして鮮度を保って各地に配送されます。そのため、今回の訪問では午後には焼きの工程は終わっていて、スタッフのみなさんが人力で魚をさばいていました。作業場に入ると多くのスタッフの方がひしめいていて、机を囲んで山積みになった魚をさばく光景は圧巻そのもの。

ヤマサちくわ

製造の機械はあるのですが、微調整は人が行わないとうまくいかないそうです。そして、朝は焼き工程で午後は魚をさばいてというように様々な工程を担当するそうです。出刃包丁は自分専用のものを持たれているそうです。一人一人が製造工程の一部になるのではなくて、臨機応変にあれもして、これもしてという毎日だそうです。

ちくわの需要は時期によっても異なりますし、そもそも魚の入荷状況も自然のものなので規則的ではないといいます。多くの職人を抱えつつ、そのときの状況に応じて柔軟に対応できるシステムになっていました。

ヤマサちくわ

よいちくわをつくるために原料は大切だといいます。誰もが納得する言葉だと思いますが、ちくわにとってよい原料は身がしっかりのっている魚で、産卵する直前。産卵後だと身がやせてしまうそうです。いつも魚はとれないし、とれたとしてもベストな時期は限られる。かまぼこも自然からできていることを実感しました。

イチビキさんを訪問

愛知県豊橋市のイチビキさんを訪問させていただきました。

イチビキ

「創業当時の建物も何も残っていないけど、理念とおいしいものをつくる姿勢は残っています。それと、研究開発の歴史の積み重ねである菌も・・・」と中村光一郎社長。1772年に愛知県豊川市で醤油づくりをはじめ、大津屋からイチビキに社名変更し現在に至ります。愛知県でお馴染みの溜醤油や豆味噌をはじめ、煮豆など多様なラインナップを手掛けていて、醤油業界ではキッコーマンやヤマサなどの5大メーカーに次ぐ準大手に位置します。

イチビキ

ちなみに「イチビキ」の由来は明治末から大正時代の大豆の買い付け時の印からだそうです。大豆の品質に応じて良品に印を付けて、粗悪品と区別をしていたそうで、大津屋(当時のイチビキ)の荷印が一本棒。そこから「一引き」と呼ばれていたそうです。

イチビキ

普段、私が訪問しているメーカーに比べるととても大きな規模で、原料を保管するサイロが100トンの規模のものが5本ありますと説明を受けると「おぉ〜。すごい」と圧倒されてしまいます。ただ、大きいからこそ優れているポイントを十分に感じることができる時間になりました。

イチビキ

研究開発部の西村さんにもたくさんのお話を伺いましたが、説明内容が本当に素晴らしかったです。当然、社外に話せない内容もたくさんあるはずだと思いますが、話してよいこととダメなことのラインをわきまえていらっしゃり、こちらの質問にもイヤな顔せずできる限り解説をしてくれました。

麹菌、乳酸菌、酵母菌を自社培養している話、そして、味噌の乳酸菌を抽出して商品化しているなど研究開発の体制が確立されていて、その技術が醤油をはじめとする製品づくりにも活かされているという印象を受けました。それは小規模のメーカーでは持つことができないレベルの研究であって、さらに大きなメーカーと比べると機動力もあるようで、個々の担当の方の自由度が広く、製品にどんどん活用している活気のようなものが満ちていました。

イチビキ

溜醤油や豆味噌の生産者は「発酵していない」という表現をつかいます。濃口醤油などは麹菌、乳酸菌、酵母菌などの微生物が活躍して、つまり、発酵が欠かせないのですが、溜醤油は麹がつくる酵素による分解作用がメインで、例えば酵母菌による酵母発酵はほとんどないというわけです。ただ、イチビキさんの溜醤油は発酵させているといいます。そのままだと発酵しないので、いろいろな工夫を施しているそうで、このあたりも大量に溜醤を手掛けるメーカーならではだと思います。