醤油の香りと酵母菌

醤油の香り

香りをつくる主人公は酵母菌

焼き鳥や焼とうもろこしなどの、あのこうばしい香り。醤油中の糖分とアミノ酸が反応(アミノカルボニル反応)してつくりだされる成分です。これに代表される香りは醤油の魅力の一つだと感じています。

その香り成分は300種類以上が含まれているといわれています。厳密なところは解明しきれていないとも言われていますが、その主役は微生物。中でも酵母菌が大きな役割を担ってくれています。花や果物やコーヒーなどの成分をたくさんつくってくれています。

主発酵酵母と後熟酵母

酵母菌は主発酵酵母と後熟酵母とに分けられます。乳酸菌が活躍した後に動き始めるのが主発酵酵母で主にアルコール発酵をしながら、醤油特有の香り成分であるフラノン化合物をつくり、麹菌や乳酸菌がつくった有機酸を元にエステル類をつくりだします。

後熟酵母は小麦の皮の成分などが炒られたり麹菌が作用したりなどを繰り返して、最後は後熟酵母がはたらいて醤油に重厚感を与える香りをつくりだします。熟成香や燻製のようなかおりとも表現されます。

[醤油の知識]:醤油の香り

えそ醤油

連続で訪問をさせていただいた、イチビキさんとヤマサ醤油さん。関連がなさそうで、じつはあるのです。ちくわの原料となるのはグチ、エソ、ハモの魚です。身の部分と頭や骨などに分けられて、ちくわに使われない部分がでてくるのですが、この素材を使った魚醤づくりのプロジェクトが、イチビキさんとの共同開発として進んでいるのです。

えそ醤油

実は、ヤマサちくわの佐藤常務とイチビキの中村社長は同級生。同窓会の席での何気ない会話がきっかけだったとか。

イチビキさんの研究開発部では国内、そして海外の魚醤を集めて味比べをしたそうです。最初の感想は、くさい。魚醤といえば独特の臭いが特徴ともされますが、とにかく、くさい。ここをなんとかできないかと感じたそうです。

一般的な魚醤は塩漬けです。魚の内臓にある酵素によって魚のタンパク質がうま味成分のアミノさんに分解されることでつくられます。つまりは発酵というより分解による作用なのですが、ここに醤油づくりで培ってきた発酵の技術を加えることができないかという挑戦です。

えそ醤油

最初はやはり失敗つづき。くさくなってしまい、泣く泣く捨てる日々。改善の第一歩は鮮度だったそうです。当初は、さばいた魚をヤマサちくわさんからイチビキさんに運んで塩漬けにしていたそうですが、ヤマサちくわさんでさばいた時点で塩漬けにする。素材が新鮮だとくさくなる割合がぐっと少なくなるそうです。そこに醤油の麹を加えて乳酸菌、酵母菌も加えて発酵をさせる工夫を積み上げてきたそうです。

一般的に発酵しない溜醤油を発酵させているイチビキさんの技術。それがまさに活用されているわけです。発酵過程の魚醤の諸味を見せていただきましたが、おどろくほどにいやなにおいが皆無で、これ本当に魚醤ですか?と聞いてしまうほど。魚醤はくさいという思い込みがなくなってしまうような味わいでした。

イチビキさんを訪問

愛知県豊橋市のイチビキさんを訪問させていただきました。

イチビキ

「創業当時の建物も何も残っていないけど、理念とおいしいものをつくる姿勢は残っています。それと、研究開発の歴史の積み重ねである菌も・・・」と中村光一郎社長。1772年に愛知県豊川市で醤油づくりをはじめ、大津屋からイチビキに社名変更し現在に至ります。愛知県でお馴染みの溜醤油や豆味噌をはじめ、煮豆など多様なラインナップを手掛けていて、醤油業界ではキッコーマンやヤマサなどの5大メーカーに次ぐ準大手に位置します。

イチビキ

ちなみに「イチビキ」の由来は明治末から大正時代の大豆の買い付け時の印からだそうです。大豆の品質に応じて良品に印を付けて、粗悪品と区別をしていたそうで、大津屋(当時のイチビキ)の荷印が一本棒。そこから「一引き」と呼ばれていたそうです。

イチビキ

普段、私が訪問しているメーカーに比べるととても大きな規模で、原料を保管するサイロが100トンの規模のものが5本ありますと説明を受けると「おぉ〜。すごい」と圧倒されてしまいます。ただ、大きいからこそ優れているポイントを十分に感じることができる時間になりました。

イチビキ

研究開発部の西村さんにもたくさんのお話を伺いましたが、説明内容が本当に素晴らしかったです。当然、社外に話せない内容もたくさんあるはずだと思いますが、話してよいこととダメなことのラインをわきまえていらっしゃり、こちらの質問にもイヤな顔せずできる限り解説をしてくれました。

麹菌、乳酸菌、酵母菌を自社培養している話、そして、味噌の乳酸菌を抽出して商品化しているなど研究開発の体制が確立されていて、その技術が醤油をはじめとする製品づくりにも活かされているという印象を受けました。それは小規模のメーカーでは持つことができないレベルの研究であって、さらに大きなメーカーと比べると機動力もあるようで、個々の担当の方の自由度が広く、製品にどんどん活用している活気のようなものが満ちていました。

イチビキ

溜醤油や豆味噌の生産者は「発酵していない」という表現をつかいます。濃口醤油などは麹菌、乳酸菌、酵母菌などの微生物が活躍して、つまり、発酵が欠かせないのですが、溜醤油は麹がつくる酵素による分解作用がメインで、例えば酵母菌による酵母発酵はほとんどないというわけです。ただ、イチビキさんの溜醤油は発酵させているといいます。そのままだと発酵しないので、いろいろな工夫を施しているそうで、このあたりも大量に溜醤を手掛けるメーカーならではだと思います。

→ ヤマサちくわさんを訪問

プリンに醤油をかけてウニ風味に。を検証

プリンに醤油

プリンに醤油をかけるとウニになる。
こんな話を耳にしたことのある方は多いはず。そこで、プッチンプリンを使って検証をしてみました。

まずは、醤油からだし醤油まで幅広く試食。しろたまり(白醤油)やみそたまりなどは塩プリン風味になっておいしいのですが、ウニ味とは違う方向性になってしまうので今回は除外しました。

だし醤油系はことごとく相性が悪かったです。おいしいとはいえない相性になってしまい、結果的にウニになりそうな雰囲気をもっているのは濃口醤油だろうということに。そこで続いては、濃口醤油に絞って比較をしていきます。

プリンに醤油

同じ濃口醤油同士の比較なのですが、予想以上に相性の「よいもの」と「よくないもの」の落差があって驚きでした。ポイントはプリンと醤油の一体感があるかどうか。一体感がないと醤油の味わいが強くなりすぎたり、醤油の香りの中でも発酵臭のような部分だけが増幅されてしまいます…。

逆に、一体感があると「あれ?!まずくない!」から、「意外においしい!」。さらには、「これはおいしいかも!」と印象が分かれます。

プリンに醤油

中でもおいしくて、ウニに近づきそうなものがこの2本でした。

・にほんいち醤油・一番しぼり(岡直三郎商店)
・丸大豆生しょうゆ(森田醤油)

最初はプリンを崩さないほうがウニの味に近そうだったので、できるだけくずさないように試食をしていました。ただ、口にいれた時はウニ感があるのに、徐々にプリンの甘みが出てきて口の中がプリンになってしまいます。先味はウニなのでが、後味はプリンなのです。

プリンに醤油

この後味のプリンの甘みをなくすことができれば、ウニに近づけるのではないかと、海苔とワサビのトッピングに助けてもらうことに。ワサビと醤油を多めにかけて混ぜ合わせるのがポイントで、かなるウニ風味になってきます。

プリンのカラメルについては、海苔ワサビなしと時はプリンのない方がいいのですが、海苔ワサビありの時は一緒の方がよいようです。

プリンに醤油

軍艦巻きにすれば見た目もウニっぽい?!

*プリンに醤油でウニ風味?!
http://www.s-shoyu.com/cook/2017/04/04/230/

プリンに醤油でウニになるを実験

プリンに醤油

プリンに醤油をかけてウニの味になる。どの醤油が一番ウニに近くなるかの検証。先日、それぞれの種類を並べて比較してみるとだし醤油系はことごとに違う結果に・・・。バニラアイスの時とにた傾向で、白醤油、みそたまり、六右衛門あたりは普通においしくなるけどウニとは違う。

やはり濃口醤油が一番近いだろうということで、濃口を並べて細かく比較。丸大豆生しょうゆ(森田醤油)と日本一しょうゆ・一番しぼり(岡直三郎商店)がまぁまぁ近くなり、さらに近づけるために海苔などのトッピングだろうなと感じつつ、もう少し試作をしてみることに。

お吸い物と醤油

お吸い物と醤油

醤油をそのまま舐めた時と、素材にあわせた時で感じ方は変わるもの。淡口醤油をお吸い物で試すと、多様な変化っぷりにが楽しい。全体をま〜るくまとめてくれたり、口に入れた瞬間にだしの風味を急速に運んできてくれたり、後になってじわじわと味の変化を演出してくれたりと。

http://www.s-shoyu.com/cook/2017/02/26/228/

神楽坂に職人醤油

神楽坂プリュス

神楽坂にも職人醤油がたくさん並んでいます!ふらっと立ち寄るとスタッフの方から質問攻めに。アイスにオススメの醤油コーナーできていました!ありがたいことです。

神楽坂プリュス
http://kagurazakaplus.ocnk.me

プリンに醤油をかけるとウニになる

よくよく耳にするこの組み合わせ。しっかりと検証をしてみようと、プッチンプリンを買ってきて、醤油を13種類並べる。小さな紙コップにプリンを小分けにして、醤油を注いでかき混ぜる。まずは本格的な検証の前に、どのあたりの醤油を深堀すべきかの、当たりをつけるためのプレ試食会。

白醤油から溜醤油までの各種類を網羅。だし醤油やみそたまりなどの加工品もバランスよく。ある程度のスピードで順番に試食しながら、「あり」か「なし」かを即断していく。一番「なし」だったのはにんにく醤油。これは正直おいしくない。にんにくの香りもプリンの甘さもすべてが悪い方向に相乗効果をかけている感じ。次が、卵かけご飯系のだし醤油で、これもお互いのよいところが絡み合おうともしない。

逆に「あり」だったのが白醤油とみそたまり。ただ、普通においしくなって、塩プリン的な感じで、ウニとは違う方向に。ウニを求めるなら濃口醤油という結論になるそうなものの、ただ、もう2歩くらいなにかが足りない気がする。次回の課題として、濃口醤油を中心に深堀をしつつ、山葵や海苔といったトッピングを交えることでさらにウニに近づけないか・・・の検証をしてみることに。

「なにか違う」を上手に表現するのは難しい

お吸い物の醤油

お吸い物にどの醤油の相性がよいか?を調べたくて、だしを用意して淡口醤油をずらっと並べる。即席のだし醤油にして順に比べていくと、なんだか違う。同時に比べないと分からないかもしれないほどの違いだけど、確かに違う。その違いを綺麗な言葉で表現できればいいのだけど、それがなかなか難しい。

この醤油を入れると甘みが増すような気がする。この醤油はだし感がより強調される気がする。そんなことを繰り返していると、口に入れた最初に感じる味と、しばらくして余韻のように感じてくる味があることに気づくのです。先味、後味のような表現できるのかもしれないけど、先味は強いけど後味はぼんやりしてしまうものや、逆に後味になるほどに強く魅力を感じたり。先味も後味も強くてそれぞれの味わいが変化するものなども。

お吸い物にしたとき、具材を入れた時にはまた違う印象になると思うので、もうちょっと試作が必要そうです。

醤油と微生物

醤油と微生物

醤油は発酵調味料とか醸造品といわれますが、その製造過程の主人公は微生物。麹菌・乳酸菌・酵母菌などが大豆のタンパク質をうま味成分のアミノ酸に分解したり、有機酸をつくって諸味のphを調整したり、香りに欠かせないアルコールをつくってくれたりと大活躍。

最初に活躍するのが麹菌。その麹づくりは醤油づくりの中で一番重要といわれますが、3日ほどかけて繁殖したものを塩水に入れると麹菌は死んでしまいます。でも、麹菌がつくりだした酵素が大豆のタンパク質をアミノ酸に分解したりと。これがないと醤油になりません。

麹に塩水を入れたものを諸味と呼び、ここで活躍するのが乳酸菌。醤油に爽やかな酸味や味の伸びや深みを与える有機酸をつくります。そして、乳酸発酵が進むほどに諸味のphが酸性になり、酵母菌が活動しやすい環境に。微生物のバトンリレーです。

醤油には2種類の酵母菌が活躍。はじめに主発酵酵母がアルコールを生み出し、それが有機酸と化学反応して複雑な香りを生み出します。そして、後熟酵母がゆっくり活動して味に深みをあたえます。熟成期間が長いと深い味わいになるというのはこんな理由から。

温度が高いと乳酸菌の前に酵母菌がどどーっと動き出してしまうことも。早沸きするとうすっぺらい醤油になってしまうので、酵母菌が動かないように低温を保ちながら乳酸菌にしっかりと活躍してもらいたいのです。そのため寒仕込みだったりも。

*参考:醤油づくりの微生物
http://www.s-shoyu.com/know/kh/235.html