醤油と微生物

醤油と微生物

醤油は発酵調味料とか醸造品といわれますが、その製造過程の主人公は微生物。麹菌・乳酸菌・酵母菌などが大豆のタンパク質をうま味成分のアミノ酸に分解したり、有機酸をつくって諸味のphを調整したり、香りに欠かせないアルコールをつくってくれたりと大活躍。

最初に活躍するのが麹菌。その麹づくりは醤油づくりの中で一番重要といわれますが、3日ほどかけて繁殖したものを塩水に入れると麹菌は死んでしまいます。でも、麹菌がつくりだした酵素が大豆のタンパク質をアミノ酸に分解したりと。これがないと醤油になりません。

麹に塩水を入れたものを諸味と呼び、ここで活躍するのが乳酸菌。醤油に爽やかな酸味や味の伸びや深みを与える有機酸をつくります。そして、乳酸発酵が進むほどに諸味のphが酸性になり、酵母菌が活動しやすい環境に。微生物のバトンリレーです。

醤油には2種類の酵母菌が活躍。はじめに主発酵酵母がアルコールを生み出し、それが有機酸と化学反応して複雑な香りを生み出します。そして、後熟酵母がゆっくり活動して味に深みをあたえます。熟成期間が長いと深い味わいになるというのはこんな理由から。

温度が高いと乳酸菌の前に酵母菌がどどーっと動き出してしまうことも。早沸きするとうすっぺらい醤油になってしまうので、酵母菌が動かないように低温を保ちながら乳酸菌にしっかりと活躍してもらいたいのです。そのため寒仕込みだったりも。

*参考:醤油づくりの微生物
http://www.s-shoyu.com/know/kh/235.html

おかかにあう醤油を探したら溜と甘口が人気に

おかかと醤油

コンビニのおかかおにぎりを買ってきて、おかかだけ食べてみたら結構甘くて濃い味つけなのですね。味覚がおかかって認識する要素を強調しているような。では、おいしいおかかを家庭でつくるなら?ということで、6種類の醤油でおかかをつくって食べ比べをしてみました。

事前の予想と結果が異なる結果に。特に、けっこう万能選手なはずの再仕込み醤油がおかかにはマッチしない印象でした。反面、甘口醤油と溜醤油がすこぶる相性がよく、新しい提案例ができました。


・白醤油
白醤油独特の風味が強調されて、白醤油だけのおかかはおすすめしません。他の具材があれば!(探し中です)

・淡口醤油
色が淡くてしょっぱい醤油なので、うま味のつまった塩おむすび風に。具材とあわせやすいので応用範囲広い。

・甘口醤油
一番の驚きが、この甘口醤油。それほど甘さが前に出てきません。おかかとの一体感はおみごと。

・濃口醤油
定番の濃口醤油は、おかかにあわせても抜群の安定感。そのままでも具材とあわせても◎。

・再仕込み醤油
うま味たっぷりの再仕込ですが、おかかとの相性はいまひとつ・・・一体感が生まれない印象なのです。

・溜醤油
濃厚な醤油。これがすごくあう!塩味とうま味がちょうどよくて、ぜひお試しいただきたい醤油です。


◆醤油の料理帖:おかかと醤油
http://www.s-shoyu.com/cook/2017/02/10/220/

アルコールが入っている醤油は悪いもの?

醤油 アルコール

■ 白カビ発生をおさえる目的

ラベルの原材料表示に大豆や小麦と並んでアルコールが記載されている醤油があります。そして、アルコールが書かれている醤油は悪い醤油だという意見を耳にすることもありますが、そう断定することはできないと感じています。

そもそもなぜアルコールを加えるかというと、白カビが発生することを防ぐためです。白カビは産膜酵母ともよばれていて家庭で醤油づくりをしていたり、量り売りをしていた時代には日常茶飯事として発生していたもので、布でこして普通に使っていたそうです。

好塩性の酵母菌の一種でぬか床の表面を覆う白い膜状の物の仲間なので、体内に入っても無害なのですが、現代では風味や香りを劣化させてしまうためビンの中での発生を防ぐ対策をしています。


醤油 アルコール

■ 白カビをおさえる3つの要素

産膜酵母の発生を防ぐには3つの要素があります。塩分が高いこと、うま味成分(窒素量)が高いこと、アルコール濃度が高いことです。この3つがバランスよく高ければよいのですが、どれか一つが低い場合は他の要素を増やす必要があります。

例えば、うま味成分が比較的少ない淡口醤油の場合、塩分を高めるかアルコールを高めるかの選択になります。そこで、塩分もできるだけ低く抑えたいという場合はアルコールを加えるという選択肢になってくるのです。逆に、アルコールを加えたくない時は塩分濃度を高めてあげれば原材料表示はシンプルな表示のまま保つことができます。

醤油の栓をあけた時にふわっとよい香りが立ちのぼってくるのはアルコールの揮発効果によるところもあり、発酵過程でアルコールは自然発生しています。酵母菌の働きによりアルコールがつくられて、商品としての醤油になった段階でも2%〜3%程度のアルコール濃度があります。添加されるアルコールはサトウキビなどからつくられる醸造アルコールが使われることが多いようです。


醤油 アルコール

■ どんな目的で使っているか

一方で、アルコールが添加されている醤油全てをおすすめできるかというと、そうとも言い切ることができず、安価に流通させることを目的にうま味成分を低くした醤油にアルコールを添加する場合もあります。

そのため、原材料表示にアルコールと書かれているから悪いもので、書かれていないから良いものという判断ではなく、つくり手がどのような目的でアルコールを使っているかで判断をしないといけないと思うのです。

http://www.s-shoyu.com/know/kh/074.html

中定商店(宝山 丸大豆たまり)

中定商店

溜醤油の5銘柄目となる新商品が到着しました。

溜といえば愛知県武豊町。「尾張のたまり」を手掛ける丸又商店や「つれそい」の南蔵商店と同じ武豊町ですが、軒を連ねるように蔵元が密集しているエリアから車で数分の距離に中定商店はあります。

中定商店のつくる豆味噌は料亭などの料理人の中では有名な存在ですが、その製造現場を見ると驚くばかりです。ご家族とパートさんによる少人数で、超が付くほどの重労働を繰り返しています。

豆味噌と溜を造る醸造蔵 中定商店
http://www.s-shoyu.com/nakasada/

大久保さんの木槽タンク

11時に蔵に集合というお便りをいただき伺うと、関係者らしき人たちがちらほら集まりだしていました。「やあやあ、久しぶりだね」と挨拶もそこそこに大久保さんが案内してくれたのは、元々玄関のあった場所。そこにすっかりと新しい建物ができていて、大きな引き戸の扉部分にはしっかりと漆が塗られていました。

大久保醸造 木槽タンク

扉を開けると皆が「お〜!」と口にしているのが聞こえてきます。大きな木槽タンクが横に寝転んでいます。この前代未聞ともいえる設置のされ方をしている1万リットルの木槽タンク が2つ、これにもまた綺麗に漆が塗られています。

大久保醸造 木槽タンク

これは何かというと諸味の発酵タンクです。通常は縦型の桶やプラスチックタンクが一般的で、中の諸味をかき混ぜる攪拌を行うことで管理をしていきます。ただ、この攪拌作業がとても人手も体力を必要とする作業で、しかも空気による攪拌だと過剰に混ぜすぎてしまうと大久保さんは感じていたそうです。そこで考案したのが諸味を混ぜるのではなくて、動かすというもの。

大久保醸造 木槽タンク

この木槽タンクの中に大きなスクリューが入っていて、5馬力のモーターでゆっくりとぐるっと動かします。中の諸味がその動きにのって一回転するといいます。タンクの中に諸味が満たされている状態にするので空気と接触する面積も最小限になり攪拌過多にもなりません。しかも、メンテナンスが楽で人でも不要。一石三鳥ともいえる仕組みです。

大久保醸造 木槽タンク

この木槽タンクを手掛けたのは日本木槽木管株式会社。もともとこの試みを大久保さんから打診されたのは8年前だったといいます。ただ、通常は縦に備え付けることを前提にした構造なので、横にすることが現実的ではなかったといいます。そのまま横にすると、下に過重がかかり上の板と板の間が空いてしまうそうです。板同士が密着していないと中身が漏れる原因にもなり、しっかりと品質保証のできないものを手掛けるわけにはいかなかったといいます。それでも大久保さんの熱意に押される形で試作品を作り、大久保さんとも議論を重ねて今日の完成を迎えたとそうです。

大久保醸造 木槽タンク

「漆はいいもんだよ」と大久保さんはいいます。「昔ね、木のお風呂もしばらく使い続けると黒いカビがでてくるわけさ。それが嫌なもんで漆を塗ったところ、これが調子いいんだよね。時間がたっても水から嫌なにおいがしないんだ」。そんな体験から内側にも外側にもしっかりと漆を塗っているそうで、日本木槽木管さんも通常タイプの木槽タンクにも漆を採用するようになったといいます。貯水タンクなどの場合、水の匂いに大きな違いがあるとそうです。

大久保醸造 木槽タンク

大久保さんはこうもいいます。「学問的なことじゃないんだ。感覚的によいものだと感じているんだ。だって、木でつくられた建物は百年たってもメンテナンスをしていれば使い続けることができるけど、鉄筋でつくった建物は40年もたてば老朽化だなんて言われてしまう。自然なほうがいいじゃない。漆は木の樹液でしょ。それを木に戻しているわけだよね」

大久保醸造 木槽タンク

大久保さんの創意工夫をどんどん形にしていくアグレッシブさは不変のもので、その柔軟性とチャレンジ精神を目の当たりにして清々しい気持ちで帰路につきました。

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◆大久保醸造店
http://www.s-shoyu.com/ookubo/index.html

あんこ屋 野中

あんこ屋 野中

醤油とは直接的には関係ありませんが、素敵なあんこ屋さんの工場見学に伺ってきました。国産材による木造の工場に圧倒され、半日製造・半日清掃をモットーにしているピカピカの現場。そして、何より顧客に寄り添う野中さんのスタンスが素敵でした。よいつくり手が、よい製造現場をつくって、よい商品が生まれる。ベースにあるのが顧客を想って考え抜く姿勢なのだと、そう感じさせてくれた工場見学でした。

あんこ屋 野中
http://www.s-shoyu.com/howto/column/151010.html

岡直三郎商店さんの桶

岡直三郎商店

群馬県みどり市にある岡直三郎商店さん。老朽化で屋根が抜け落ちてしまった蔵。そして、蔵と桶が解体されることに。「もったいない」と口で言うことは簡単だけど、「じゃあ、こうしましょうよ!」と具体的な提案ができないことに力不足を感じつつ・・・桶の周囲を取り巻いている箍を譲り受けることに。直径2.7メートルの50石桶の箍をどうやって解体して搬出するか、第一のハードルが出現。今月下旬に搬出予定なのでまた報告します!

埼玉県の笛木醤油さん

笛木醤油

笛木正司さんの、このがっしりした体格はなんなんだ?!と思わずにはいられない。2006年に家業に戻ってくる前にサッカーで鍛え、その延長線上の海外留学が大きな転機であったとか。その地でたまたま売られていた自社商品を見て友人は言う。「これはお前の実家のものか?!お前のミッションだぞ。これは。」そして、戻ってきて感じたのはスタッフの愛社精神。製麹を自分の子供のように扱っているのが印象的だったとか。

自分たちでできることはしようと笛木醤油が取り組んできたのは機械化の逆。そして、何にでも挑戦してきた。醤油を主にスイーツや加工品。ゼリーもした。ここには、伝統を引き継ぐということは挑戦するという風土がある。先代が残してくれた分析装置で、原料の大豆の段階から数値分析を行う。段階的に行っていて、醤油を搾るタイミングも数値で判断する。次は何に挑戦していくのか、かなり楽しみ。

店舗だけど製造許可書が

弓削多醤油川越

埼玉県の弓削多醤油さんといえば仕込み蔵に併設されている「醤遊王国」。醤油づくりの見学から醤油ソフトクリームまで、醤油のことなら何でもお任せといった施設。その弓削多醤油さんが川越に出店されたお店の中心にどーんと構えるのは圧搾機。天秤棒をつかって自由に力をかけて醤油が搾れる。そして、そのまま味わうことが出来る。さすが、弓削多さん。こう来たか!という感じなのですが、これを実現するのって簡単ではないのです。

ものをつくって販売をするには色々なルールがあります。製造許可書や保健所のチェック、商品に貼る表示ラベルに関するものだったり。色々感じることはあるけど、ルールの中で何ができるかを考えないといけないもの。醤油を搾る行為は製造。だから、ここは店舗でありながら製造許可が必要。そして、製造許可を取るためには開放されている空間ではダメなので、ガラスや透明アクリルで区切られている。それを踏まえて店舗を見ると、なかなかに面白い。

微生物とバランスと

微生物とバランス

「麹をつくっている時には納豆を食べてはいけない。そう言われますよね?!」と、栄醤油醸造の深谷社長が見学者に方に説明をしている。「私は個人的にあまり好きではないので食べないですけどね。ただ、必ずしもそうではないんですよ・・・」。麹菌がしっかりと繁殖しきった後であれば、納豆菌はその隙間に入っていくことはできない。だから、麹菌が繁殖する前は注意しないといけないけど、その後は大丈夫というわけ。

最近は何でも除菌除菌というけど、様々な微生物がバランスをとっている状態が自然な状態。悪い菌をなくそうと除菌すると思うけど、それ以外の菌もなくしてしまって、まっさらな状態になってしまう。そうなれば、悪い菌はより簡単に増殖できてしまうので本末転倒かもしれない。人が集まって組織をつくるときも、様々なタイプの人がいてバランスがとれるように、やっぱり何事もバランスなんだなぁと、蔵見学を傍目で見ながら。。。